第三帝国の只中で

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われらはただひたすら自らを充実させ 真実にし 新たにしよう
やがて核心以外のものはすべて われらより消滅しよう!
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ドイツの詩人ハンス・カロッサの詩稿(複製)である。自筆で2カ所訂正され、詩稿の下にカロッサからの献辞が書き込まれている。詩の邦訳はエファ カンプマン=カロッサ編/碓井信二訳『ハンス・カロッサ全詩集』(早稲田出版)にある。

時代の畝は鋭い鋤で掘り返され
見渡すかぎり 掘り出されたのは土塊(つちくれ)ばかり
かくも大地が固くて われらの発芽力は耐え得るか?
だが論ずるな 何処に蒔かれる定めにあるか 危惧するな!
来るべき星の萌芽をわが身に潜めぬと 誰が知ろう?
われらはただひたすら自らを充実させ 真実にし 新たにしよう
やがて核心以外のものはすべて われらより消滅しよう!
その時 たとえ地上にあって解放されずとも 炎われらを解放す
(P272~273)

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同書には次のように由来も記されている。

初刷は、1939年版の『詩集』第8版。
成立は1938年。
この詩は、カロッサの生誕60周年記念の祝辞に対する
感謝の辞としてファクシミリで模写された。
1939年2月4日付でモンベルトの誕生日にカロッサは、
この詩を手紙に添え、次のように認める。

「……同封の警告は、彼には必要のないものでしょう。
と言うのも私は、未来を案じる若者達のために、
彼等が寄せる手紙に対する答えとして、
それを書いたからです……」(P273)

訳者の注によれば、同作の詩形は「エンディカシラボの対韻(ABAB)8行から成る『シュタンツェ』詩節」で、「その重厚な詩調は、第二次大戦開戦前後の重苦しい時代状況を映して」いるという。カロッサが同作を書いた1938年には、ナチス政権がオーストリアを併合し、ユダヤ人居住地域が襲撃されるなどしていた(いわゆる「水晶の夜」)。「第三帝国」に酔う人びとに囲まれて、カロッサは何を思っていただろうか。

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