19項目の詩論

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詩にも掟があるであろう。
われわれ人間が神の掟の前に立てるがごとく、
詩は文学精神の掟の前に立って
厳粛な旗のようにひるがえらねばならない。
現代詩はその良心を持ち合わせているであろうか。
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富山県出身の詩人・稗田菫平(ひえだ・きんぺい/1926~2014)の自筆原稿である。「詩・monologue」と題し、200字詰めの「牧人文学社 稗田菫平用箋」9枚に書かれている。活字では宝文館出版『稗田菫平全集』の第8巻、P43~45に収録されており、稗田の詩論のように読めて興味深い。現代の実作者にとっても益するところがあるように思う。


「詩・monologue」

1 詩人―その名に価するものであるならば、
われら神の座せる膝のあたりに、
神のおん掌の凹みのあたりに、
言葉も匂うて百合のごとく花咲けるであろう。

2 詩にも掟があるであろう。
われわれ人間が神の掟の前に立てるがごとく、
詩は文学精神の掟の前に立って
厳粛な旗のようにひるがえらねばならない。
現代詩はその良心を持ち合わせているであろうか。

3 苟くも詩が存在するためには、
多少は詩的であることである。

4 最もよく詩を楽しんだものが、
最もよく詩を生かしきった者だ。

5 詩は多分に窄い門のところで
押し合い圧し合いしている。
最も他の文学や芸術もこれと大差がないようだ。
これは地球がちぢまった事に基因している。

6 真の詩は語らるべきではない。
本当の詩はやはり言いようのないものだ。
語られるものはポエトリだけである。

7 詩が定着していない時
その言葉は蛇行して流れ、
だらだらと草地をはってゆく。
詩心はもうとっくに
土に泌みて影も匂いも見い出せない。

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8 詩のフォークが宇宙の外へずり落ち、
詩の肉塊がスプーンの海に泳ぐ。
詩人は皿でなければならない。

9 詩人の行為は
詩の形象化のなかでこそ行なわれる。
この行為の非情のなかに死する者が即ち詩人である。
詩の行為自体が、詩と詩人の全てである。

10 詩人とは、
時に危険な毒の果実を食む禽獣である。

11 悲しい内部の声―「孤独」が、
そこで詩の受胎を告知する。

12 一切に傾聴し、
そこから生と死をうたい出す者は詩人である。

13 透明な生理の水辺に、
詩は葦のごとくなびき
水藻の花の如くゆれるであろう。

14 その生から出てくるものは詩、
その死へ入ってゆくものも詩。

15 言葉を拒絶するところから詩は出発する。

16 昨日の形象を打ち砕き非情を打ちこわし、
今日の非情が常に今日に形象化されることを。

17 詩が詩に支えられている領域を
すみやかに脱出せよ。

18 年輪に聴け、詩人の充実。

19 詩は愛ではない、詩は詩である。
愛は詩ではない、愛は愛である。
だが詩人に愛なくては。
愛の心に詩がなくては。