愛国の悲しみ
~~~~~~~~~~
日本の母に 大義あり
~~~~~~~~~~
詩人・竹内てるよの自筆詩稿である。作品名は「母の大義」。日本放送協会編『愛国詩集』(1942年刊)などに収録された。
貧困と病に苦しんだ竹内の詩は弱いものへの同情に満ち、わが子と別れなければならなかった悲しい境遇が、母と子をめぐる真率な詩句に結晶している印象があった。この「母の大義」は、現代から見れば、歪んだ人生観・世界観だろうか。「大義」のために涙をおさえつけ、自分を奮い立たせなければとてもまともではいられないような、圧しつぶされた悲しみも感じられるように思う。
竹内が1942年に出した半生記『灯をかかぐ』(文昭社)を見ると、心から信頼し、慕っていた祖父が死に際に残した「お前は不幸だが、お前も大君の赤子のひとりではないか、日本人に絶望はないのだ」(同書P142)という言葉が、苦しい境遇を耐え忍ぶ一つの支えになっていたようだ。天皇が現人神(あらひとがみ)だった時代に生きた人にとっては、わが子を「大君の御楯」とするのは、当然の感覚だったのだろうか。
太平洋戦争では、多くの著名な詩人が戦意を鼓舞し、人を殺し・殺されることを賛美する詩を書いた。日本放送協会編『愛国詩集』に収録された詩人を列挙すると、高村光太郎、三好達治、室生犀星、野口米次郎、西條八十、草野心平、堀口大学、神保光太郎、佐藤春夫、土井晩翠、千家元麿、百田宗治、丸山薫、村野四郞、尾崎喜八、白鳥省吾など、詩風の違いを超えて錚々たる面々が集まっている。戦前はロマン・ロランなどが見せた反戦・人道主義的精神に共感し、ヒューマニズムを志向していた詩人まで迎合してしまった。それほど時代の波というものは、抗いがたいものなのだろうか。無理からぬ事情もあったのかもしれないが、社会全体が熱に浮かされている中にあって、決して戦争詩・愛国詩を書かなかった詩人たちがいたことも忘れるわけにいかない。
母の大義
たちばなかほる南の國に
男子 生れ
わが友 ひとり母となる。
わが友よ 母となれ
わが友よ 母となれ
太平洋に 旗は上りぬ
戦火の中に
男子 大君の御楯として 召され征く
男子 一千死するとき
男子 二千 生れよ
いのちをかけて育て上げ
再び 大君の御楯とせむ
日本の母の大義なり。
みぞれ降る北方の國に
男子 生れ
わが友又ひとり母となる。
わが友よ 母となれ
永遠に 母となれ
打ちつづき 母となれ
戦ひは 壮烈
男子 大君の御楯として召され征く
われらは 純潔健康なる肉体をつくりぬ
誠忠を うち込みて
みいつの下に育て上げ
父の花靖国のさくら二十たび咲くとき
けふのその子を再び御楯とせむ
征けよ 男子
心安らかに 征かれよ!
日本の母に 大義あり。
※詩稿に修正の書き込みがある部分は従った。
『愛国詩集』収録のものとは一部表現に違いがある。
~~~~~~~~~~
日本の母に 大義あり
~~~~~~~~~~
詩人・竹内てるよの自筆詩稿である。作品名は「母の大義」。日本放送協会編『愛国詩集』(1942年刊)などに収録された。
貧困と病に苦しんだ竹内の詩は弱いものへの同情に満ち、わが子と別れなければならなかった悲しい境遇が、母と子をめぐる真率な詩句に結晶している印象があった。この「母の大義」は、現代から見れば、歪んだ人生観・世界観だろうか。「大義」のために涙をおさえつけ、自分を奮い立たせなければとてもまともではいられないような、圧しつぶされた悲しみも感じられるように思う。
竹内が1942年に出した半生記『灯をかかぐ』(文昭社)を見ると、心から信頼し、慕っていた祖父が死に際に残した「お前は不幸だが、お前も大君の赤子のひとりではないか、日本人に絶望はないのだ」(同書P142)という言葉が、苦しい境遇を耐え忍ぶ一つの支えになっていたようだ。天皇が現人神(あらひとがみ)だった時代に生きた人にとっては、わが子を「大君の御楯」とするのは、当然の感覚だったのだろうか。
太平洋戦争では、多くの著名な詩人が戦意を鼓舞し、人を殺し・殺されることを賛美する詩を書いた。日本放送協会編『愛国詩集』に収録された詩人を列挙すると、高村光太郎、三好達治、室生犀星、野口米次郎、西條八十、草野心平、堀口大学、神保光太郎、佐藤春夫、土井晩翠、千家元麿、百田宗治、丸山薫、村野四郞、尾崎喜八、白鳥省吾など、詩風の違いを超えて錚々たる面々が集まっている。戦前はロマン・ロランなどが見せた反戦・人道主義的精神に共感し、ヒューマニズムを志向していた詩人まで迎合してしまった。それほど時代の波というものは、抗いがたいものなのだろうか。無理からぬ事情もあったのかもしれないが、社会全体が熱に浮かされている中にあって、決して戦争詩・愛国詩を書かなかった詩人たちがいたことも忘れるわけにいかない。
母の大義
たちばなかほる南の國に
男子 生れ
わが友 ひとり母となる。
わが友よ 母となれ
わが友よ 母となれ
太平洋に 旗は上りぬ
戦火の中に
男子 大君の御楯として 召され征く
男子 一千死するとき
男子 二千 生れよ
いのちをかけて育て上げ
再び 大君の御楯とせむ
日本の母の大義なり。
みぞれ降る北方の國に
男子 生れ
わが友又ひとり母となる。
わが友よ 母となれ
永遠に 母となれ
打ちつづき 母となれ
戦ひは 壮烈
男子 大君の御楯として召され征く
われらは 純潔健康なる肉体をつくりぬ
誠忠を うち込みて
みいつの下に育て上げ
父の花靖国のさくら二十たび咲くとき
けふのその子を再び御楯とせむ
征けよ 男子
心安らかに 征かれよ!
日本の母に 大義あり。
※詩稿に修正の書き込みがある部分は従った。
『愛国詩集』収録のものとは一部表現に違いがある。
コメント