老哲学者の詩想

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昔もえていた光は
未来への道を今、てらしはしない。
くらやみの中から少しずつ
今ゆく道をまなぶのだ。
(ジョン・デューイ「真理の松明」から)
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哲学者の鶴見俊輔氏が2014年、92歳の時にまとめた全詩集である。80歳の時に刊行した処女詩集『もうろくの春』に加え、その後に書かれた作品や翻訳詩など全50篇を収めている。哲学者らしいユニークな視点の作品もあり、面白い。

「宇宙の底に
しずかにすわって
いると思う時がある
この自分が まぼろし

私の眼にうつる人も
ここにいる時はみじかく
いない時の中に
この時が 浮かぶ」
(「この時」全 P8)

「彼はすばやい。はっきりした形にたよって、考えてゆくから。
私はのろい。形のきれはしをたどって、考えてゆくから。

彼はにぶくなる。はっきりした形を信じているから。
私はするどくなる。形のきれはしを信じてはいないから。

形を信じるゆえに、彼は形によりかかる。
形をそのまま受け入れない私は、形に我が身をあずけない。

事実にうらぎられるとき、彼は感覚をうたがう。
事実にうらぎられるとき、私は感覚を受けいれる。

彼ははっきりした形をかかえて、すばやく、そしてにぶくありつづける。
私は形のきれはしにかこまれて、ゆっくり、そしてするどくありつづける。

彼は、理解のあたらしい混乱のなかに。
私は、混乱のあたらしい理解のなかに。」
(ロバート・グレイヴス
「形のきれはしから」全 P10~11)

「子どもは成人した大人の父親だ」
(ワーズワース P58)

「人の子よ、みずからの足によって立て。
そのとき、私はなんじにはなしかけるであろう。」
(旧約聖書エゼキエル書 P78)

「松明(たいまつ)が、よろこばしい火だと思ってはなるまい。
散らばる火の粉は、くらやみに消え、
のこるのは、やけこげ。

真理が夜空を明るくし
もはや一点のくもりもないなどと
ひま人の言いはなった
嘘っぱちを気にするな。

昔もえていた光は
未来への道を今、てらしはしない。
くらやみの中から少しずつ
今ゆく道をまなぶのだ。

ひろびろとまわりがひらけて
ふみかためられた道が幾条も見えるとしても、
君のさがしている真実の道はあらわれてはこない

みずからの炎の矢が
旅路をおおう深い霧をきりさくまで。」
(ジョン・デューイ「真理の松明」全 P88~89)

「ひとつの眞理の主張は
まちがいの
バックコーラスに
ささえられている。

なめらかな布地は
ざらざらの
とんでもない文様の
うらをもっている。

自分をうらがえす
計画をひとつ
用意しましょう。」
(「この機会に」から P108~109)

「あかんぼうに出会うとき、
頭のうしろに
光の輪が見える

乳母車の中で
動けないまま
世界に対している

世界にうみだされたことの
苦情をいわず
ただ一心にみている

ここはどこか
何が自分を待っているのか
自分の責任とは何か
――そんなもの、あるわけないではないか」
(「あつい日、道で」全 P112~113)