一心の詩魂

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限りある命だから
蟬もこおろぎも
一心に
鳴いているのだ
花たちも
あんなに
一心に
咲いているのだ
わたしも
一心に
生きねばならぬ
(「一心」全 P11)
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本書は1999年、著者である坂村真民が90歳のときにまとめた自選詩集である。著者のあとがきによれば、それまでの既刊詩集に未収録の作品を中心にまとめたという。

真民の作品は現代詩特有の難解さやくさみがなく、素直に読めるものが多い。それは苦しんでいる人々を慰め、勇気づける言葉を届けたいという基本姿勢に徹しているからだろう。詩作品として物足りなく感じることもあるが、その詩魂に救われた人は少なくないのではないか。

「まなざしは
蓮の花のように
夜明けの
光のなかで
開いてゆく」
(「無題」全 P9)

「遠い遠い昔
まだ地球ができたばかり
一匹のこおろぎが
鳴きだしたばかり
タンポポが
咲きだしたばかり
みそさざいが
歌いだしたばかり
果てしない青空の
青い色のつゆくさのつゆが
いっせいに輝きだした時
一つのうたが生まれた
そのうたを受け継ぐために
わたしは生まれてきた
つゆはあめつちの
いのちの滴(しずく)
つゆくさのつゆを吸飲し
光るうたを作ってゆこう」
(「つゆくさのつゆが輝きだした時」全 P10)

「限りある命だから
蟬もこおろぎも
一心に
鳴いているのだ
花たちも
あんなに
一心に
咲いているのだ
わたしも
一心に
生きねばならぬ」
(「一心」全 P11)

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「生きとし生けるものの
かなしみを知るために
わたしは一日でも長く
生きねばならぬ
いろいろの病気をするのも
そのため
いろいろの苦難に会うのも
そのため
ぼうだいな量の
地球のかなしみに比べたら
わたしのかなしみなど
一片の塵に等しい
ああ
かなしみを重ねよと
寄せてくる波か」
(「波」全 P12)

「少しでも戦争の臭いのするものには
抵抗し遠ざけよう
少しでも権威に媚びようとする人とは
つながりを断とう
少しでも生きとし生けるものの
幸せのため
生きてゆこうとする人たちと
手を結んでゆこう
大きなことはできないが
一羽の鳥でも救い得て
一人でも多く励まし助け
力になるよう
念じてゆこう」
(「少しでも」全 P13)

「信ずることのできる人を
一人持つということは
幸せのなかの
最大の幸せだ
世の中がどんなに変わろうと
変わらない人を持つことの喜び
朴(ほお)の花のように
今も慈悲に満ち
生きています
ゴータマ・ブッダ」
(「朴の花のように」全 P14~15)

「行きずりの人にも
知らせてやりたいことば
それは『念ずれば花ひらく』

耐え難い重荷を負うた
おんなびとへ
知らせてやりたいことば
それは『念ずれば花ひらく』

挫折に挫折を重ね
生きる望みを失った
若人へ
知らせてやりたいことば
『念ずれば花ひらく』

虫も鳥も
そういって鳴いており
路傍の草木も
そう告げており
宇宙の星たちも
そういって輝いていることを
知らせてやりたい」
(「知らせてやりたい」全 P16~17)

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「火が消えるように
自分が消えそうになった時

水が流れるように
自分が流されそうになった時

山が崩れるように
何もかもが崩れてゆく時

彼岸にある
真なるものを信じ
行じてゆこう
わたしが毎晩
橋を渡り
彼岸に行くのは
そのためだ」
(「彼岸にあるもの」全 P19)

「何か一つでもいい
いいことをして
この世を去ろうではないか
散る花を惜しむ心があったら
一匹のこおろぎでも
踏み殺さないように
心してゆこうではないか
大きなことはできなくても
何か自分にできることをして
宇宙の塵となろうではないか」
(「宇宙の塵」全 P20)

「万年のまなざしは
仏菩薩のまなざし
千年のまなざしは
わたしが願う
人間のまなざし」
(「無題」全 P37)

「宇宙を分類したら
真善美となる
そしてその調和が
愛のまなざしである」
(「無題」全 P57)

「父の名はたねし(子司)
母の名はたね(夕子)
だからわたしは種を大事にする
毎朝まず枸杞(くこ)の実の
粉末を飲み
一日中ハブ草の実の
煎じたのを飲む
梅ぼしの種は必ず割って食べる
種には生命の核があるからだ
小さい大根の種に
ごま粒の実に宿る
宇宙の霊
宇宙の生命
ああ種たちが教えてくれる
根本の問題
それはどう生き
どう死ぬか
どんな花を咲かせ
どんな実を結ぶか
一生の命題」
(「種」全 P65)

「かつて失明しようとした目が
どんな細かい字でも
見えるようになった
針に糸まで通すことが
できるようになった
眼鏡なしで本の読めるありがたさ
これは食べものからでもない
薬からでもない
華厳唯心偈の通り
すべて心からきている
わたしの心が変わったからだ
五臓六腑よ
頼むよ頼むよと
念仏のように唱え出してから
体の全器官がわたしの信頼に
応えてくれるようになったからだ
業病持ちのようなわたしの細胞が
生き生きと働き出して
その第一のしるしが目に現われ
葉脈の線まで見えるようになった」
(「目」全 P88)

「咲くも無心
散るも無心
花は嘆かず
今を生きる
花の下に立つと
いつもそう思う
とくに白木蓮のような
春早く咲く花は
咲いた日
強い寒波がきたりして
あっという間に散ってゆく
でも花の下に立っていると
これでいいんですという
花の声がきこえほっとする
大切なのは今
永遠の今
萬象はすべて
この今を生ききっている
だから生命に溢れ
美しいのだ」
(「今」全 P95)

「わたしの詩は
生きるために苦しみ
生きるために泣き
生きるためにさげすまれ
はずかしめられても
なを生きようとする
そういう人たちに
ささげる
わたしの願いの
かたまりであり
湧き水である」
(「私の詩」全 奥付)

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