焼けつくような終末感

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見ると一メートルあまりの蛇が
今日はじっと敷石の上で日なたぼっこをしているのか
断末魔のようにじっと動かずに
ただ舌だけを時折りちろちろと吐いて。
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詩人・山室静の詩「世紀末の春」の自筆草稿である。ところどころ修正が施されている。もともとのタイトルは「へんな春」だったようだ。しかし、本作がかもす焼けつくような終末感は「世紀末」という言葉がふさわしい。

世紀末を越えて、21世紀も17年が過ぎたが、ここ数年の天地の様相は黙示録的という表現が合うだろうか。異常な出来事が日常のようになり、ますますエスカレートしているように見える。異常な日常をいかに生き、いかに死ぬか、自身の死生観が厳しく問われるようになりそうだ。

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世紀末の春

しきりに啼く鶯の声で目をさました
窓をあけてみると
久しぶりの青い空だ
その青空に向って一斉に白木蓮が
何千もの白い炎の手を合せたような形に
花を高々とささげていた
昨日まではほんの四五輪が開きかけていただけなのに

だがそれからほんの少しして
その上空のかなり高くを
一台の飛行機が轟音をたててよぎった
とたんにばらばらと
まるで驟雨のように
木蓮の花びらが落ち散った
人間にはさしたる異常も感じられなかったのに

もちろん全部が散りつくしたわけではない
しかしそれきり花の盛りは過ぎてしまった
鶯ももう啼かなかった
ヤマボウシも花ミズキも今年は花をつけぬらしい
池を埋めつくす程だったヒキガエルの仔も
あらかた死んで腐ったのか
池そのものがたまらぬ腐臭を発してきた
きっと飛行機が何かをまき散らしたのだ
見ると一メートルあまりの蛇が
今日はじっと敷石の上で日なたぼっこをしているのか
断末魔のようにじっと動かずに
ただ舌だけを時折りちろちろと吐いて。
(郷土出版社『山室静自選著作集』第1巻 P164~166)

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