一歩一歩、着実に

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生きている限りは人々の幸福を願い、
自分の仕事を忠実にはたしてゆく事を
僕は務めたいと思っている。
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作家・武者小路実篤の自筆原稿である。タイトルは「新年を迎えて」。「新しき村」の関係者に向けたものか。大地をしっかり踏みしめて、一歩一歩着実に、自らの道を歩んでいくことが、結果的に大きな進歩となることを訴えている。「少しづゝものになる処が面白い」というまじめな茶目っ気が、いかにもこの人らしい。

【新年を迎えて】

武者小路実篤

新年を迎える事は喜びである。
そして今年は健康で少しは進歩したいと思っている。
大いに進歩したいのだが、中々そううまくはゆかない。
毎日毎日心をこめて仕事をしてゆけば、
自分の知らない内に少しづゝものになるのだと思う。
少しづゝものになる処が面白いと思っているが、
飛躍が出来ればなお嬉しいにはちがいない。
今年はいい年であってほしい願いは持つが、
僕の願い位ではどうにもならない事を知っている。
どうにもならないが願いを持つのは許されるであろう。
生きている限りは人々の幸福を願い、
自分の仕事を忠実にはたしてゆく事を
僕は務めたいと思っている。
進歩は遅いが、
毎日勉強出来るのは喜びだ。
今年はいい年であれ。
そして信頼出来る人々が精進してくれる事を
望まないわけにゆかない。
君達がいてくれる事は、
実に感謝すべきだと思っている。

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