生と死の連環

~~~~~~~~~~
生の大きな環は
ぼくらにけっして見えないにせよ
土壌と大気 太陽と樹液を
つらぬき流れているばかりではない
死と腐敗 忘却と無化
ぼくらがただ生の否定と見なすものをも
深くへめぐって大らかに循環していることを
~~~~~~~~~~

DSC05455.jpg

詩人・藤原定の自筆詩稿である。生と死の連環を描いた本作は、藤原の恩師である片山敏彦や、フランスの作家ロマン・ロランが心を傾けていた「ユニテ」のビジョンを思わせる。

【老人の日に】
老人の日に堆肥の深い穴を掘ったが
これから投げ込む死んだ木の葉らよ
この穴は君らの墓場で
新しい生への通路だ
よく腐り形を失い沃土になるのだ
腐敗によって燃える熱
君らは自分の死から
焦熱地獄をよび出して
もう一度さらに深く死なねばならぬ
そうして始めて見知らぬ生に加担できるのだ

死んだ君らはもはや自分を見失っている
それが未来だ
見とおせる未来なぞ現在にすぎぬ
ぼくらもやがて自分を失うのだが
ただおぼろけに予感できよう
生の大きな環は
ぼくらにけっして見えないにせよ
土壌と大気 太陽と樹液を
つらぬき流れているばかりではない
死と腐敗 忘却と無化
ぼくらがただ生の否定と見なすものをも
深くへめぐって大らかに循環していることを

(昭和五四年刊詩集『環』から。このたび加筆。)

※沖積舎『藤原定全詩集』のP454~455に収録されているが、若干の異同がある。


DSC05456.jpg

DSC05453.jpg