詩心媒介に東西文明の調和を志向

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何ものかが
それ自身によって実っている――
風そのものが実るかのように。
そのために日ごとますます
いのちに新しい若さが育つ。
(片山敏彦「夢の重み」から P43)
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『季刊 アポロン』は、「人間の知性と心情を重んじ、ポエジーを尊ぶ雑誌として育てゆこうという構想のもとに」(創刊号・編集後記)創刊された雑誌である。片山敏彦や山室静、宮本正清、清水茂らが参加し、ロマン・ロランやヘルマン・ヘッセ、タゴールなど海外文学の紹介を軸に東西文明の交流・調和を志向している。終刊となる第4号は1959年9月に発行された。

巻頭の詩には雑誌の性格がよく表れているように思う。

「すべてのものが取り除かれて今は無言にただ独り在る。
   精神は思想から 心情は嘆きから解き放たれ
    精神と心情とは今や信念を超えた無において成長する。
 我はなく 自然はなく 知識の無智もない。」

「ただ限りのない不変のものだけが
   ここに在る。じつに大きい 形のない静かさが
    万物に取って代り――その中で
 曾て自我であったものは 無言無名の空なものであり
   それは知り得ないものの中に甘んじて消えるか
    それとも無限者の光の海たちとともに鼓動するかである。」
(オーロビンド「ニルヴァナ(涅槃)」から 片山敏彦訳 P3~4)

本号は作家アンドレ・マルローと前田陽一・東大教授との対談を収録している。以下マルローの発言。

「日本とは、すぐれた精神的価値の連続であり、その中においては、類まれな洗練さが、殆(ほとん)どいつも、勇気と結ばれ合ってきたのです。私が人々に知って貰いたいのは、あの十九世紀の有名な浮世絵ではなく、ヨーロッパの識らない日本の偉大な彫刻、偉大な絵画、又音楽の中に発見されている日本人の精髄の全体なのです。そうなれば、日本と西洋の間には、これ迄(まで)とは全く異なる接触が出来上ることは確かです」(P6~7)

「私は世界の半分ばかりを飛行機で速く通って来ました(中略)一つの文明から他の文明へと急速度に移りますと、貴方も御存知のように、何かそこの人間をつかみ、まとめる一種のデモンが存在しているような気がします。つまり、魚が養魚槽から出ることができないように、人々が水から出ることを妨げている、いわば海のようなデモンがあって、そのため、人々は彼らの文明の枠の中でしか考えることができないようになっているのです」(P10)

「今や多数の国は、人類が平和の裡(うち)に存在することを欲しています。しかし、人類が平和の裡にあるがためには、それが単に戦争をしていない人々の文明ではなく、戦争を欲する者は戦争をつくり上げるように、平和を建設しようとする人々の文明でなければなりません。平和の建設という仕事は遅々として進まず、かつ又困難なことです。私の考えでは、平和というものは、精神的な価値なくしては不可能なもののように思われます」(P11)

マルローの問題意識は現代にも通じると思う。