時代の終わりとはじまり

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ロランは常に我々の先達であり、
魂の慰め手であり、激励する人であった
(「編集後記」)
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本誌はロマン・ロラン協会の会報「ロマン・ロラン研究」の第1号である。1951年11月に出た。

ロマン・ロラン協会は1951年、当時早稲田大学の大学院生だったフランス文学者の蜷川譲(にながわ・ゆずる)氏が中心となって設立した。「日本・ロマン・ロランの友の会」とは別の流れである。

ロラン協会は定期的に公開研究会を開催し、学生や大学教員、会社員、教師、医師などロランに関心を持つ幅広い人々が参加した。会報は「ロマン・ロランの反戦思想と現代」「ロマン・ロランと日本文学」など毎号テーマを決めて発行し、1983年の140号まで続いた。

公開研究会はその後も継続し、近年までに約450回の開催を数えた。しかし2014年7月、中心者の蜷川氏が89歳で逝去。参加者の高齢化も進み、活動の継続が困難であることから、ロラン協会は事実上の解散になったという。

会報第1号の冒頭に掲げられた「発刊に際して」の言葉には、ロランに学び、新たな時代を切り開こうとの決意が感じられる。

「限りない闇は続いている。
不安と混迷の中に不合理の精神が横行している。
すべては真理の蔭蔽と歪曲でおおわれている。
私たちは暗い夜道をさまよいながら、
一点の燈火(あかり)を見いだそうとしている(中略)
わが身にふりかかる重圧の中から、
真実の声を聞こう、真実を叫ぼう、と思わずにはいられない。
吾々は集り、手をとらなくてはならない。
激しい嵐の中で、いかに揺すぶられ、吹きさらされようとも、
大胆に自己を語ろう。
真実が大きく成長するために。
ロラン精神が現実に甦えるために」(P1)

戦中・戦後の混乱期に幼年時代を過ごした人々の間では、ロランは必読書だったという。人生の師と仰ぐ人も少なくない。なぜ、それほど読まれたのか。本誌掲載の「ロマン・ロランの教示(今江祥智著)」には次のようにある。

「ロランほど現在の吾々にとって近しい導き手はない。
それは彼が常に現実を直視し、現実の知性を索(もと)め、
現実の中に果敢に闘い続けて来たことによるのだし、
常に『万人のために、時には万人に抗して、
そして後には万人と共に』考え行動した存在だったからに他ならない。
だからロランは、吾々が苦難に直面し真摯に悩む時、
いつも前方に生きている」(P12)

ロラン愛読者の多くが共感するところだろう。社会の表情は異なっても、60年前と現代に本質的な違いがあるとは思えない。ロランの作品が持つ価値も減じていないはずだ。ロラン協会という〝場〟は失われても、真摯な読者がいるかぎり、ロランの精神は生き続ける。そして、新たな場から新たな価値が生み出されていくと信じたい。